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     【裏】ロシア政治経済ジャーナル No.225


                       2024/5/28


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★ロシアを蝕む深刻な【システム危機】とは?



全世界の裏RPE読者の皆様、こんにちは!

北野です。



昨日の【裏メルマガ】のテーマは、



「プーチンでも粛清できない男」



でした。

@「誰だそれは!?」

と思われた方は、いますぐこちらの動画をごらんください。

https://www.youtube.com/watch?v=4cPsKFDi6EM


この動画の主人公は、「全ロシア将校協会」の会長
(2022年2月当時)で上級大将のイヴァショフさんです。

イヴァショフさんは、2022年1月31日
(つまりウクライナ侵攻開始の25日前)、
「公開書簡」を発表しました。

その内容が驚愕物でした。


・プーチンは、ウクライナ侵攻をやめろ!

当時、プーチンと政府高官たちは、
「戦争なんてありえない!」と
ウソをつき続けていましたが・・・・。


・プーチンは、辞任せよ!



ロシアでこういうことをした人には、
通常「逮捕」か「死」が待っています。

しかし、イヴァショフさんは、生きていて、
逮捕もされていません。

細かいことは、動画をごらんになってください。

https://www.youtube.com/watch?v=4cPsKFDi6EM


さて、イヴァショフさんは、
「プーチンが戦争をはじめる理由」について、
プーチン自身の説明とは、全然違う理由を挙げています。

何を言っているのでしょうか?



〈「ロシアは現在、深刻なシステム危機に陥っている。

しかも、ロシアの指導者たちは、
国をシステム危機から救うことができないことを
理解している。

システム危機が続くことで、いずれ民衆が蜂起し、
政権交代が起こる可能性が出てくる」。〉
ーー


このことと、「ウクライナ侵攻」と
どういう関係があるのでしょうか?

イヴァショフさんの解説はこうです。



〈戦争は、しばらくの期間、反国家的権力と、
国民から盗んだ富を守るための手段だ〉
ーー



これは、どういうことでしょうか?

ロシアでは、戦争をすると大統領の支持率が上がるのです!

プーチンの支持率は、2021年11月時点で63%でした。

それがウクライナ戦争がはじまった1カ月後の
2022年3月末には、80%まで急上昇しました。

2024年3月に実施された大統領選挙では、
87%の得票率で、圧勝したことになっています。


要するにイヴァショフさんは、
「プーチンが支持率を上げ、自分の権力と富を守るために
戦争を始める」と、非常に冷めた見方をしていたのです。

この件で、


「ロシアが陥っていたシステム危機の内容を、
詳しく教えてください。
宜しくお願いします。」


と質問がありました。

イヴァショフさん自身は、何を言っているのでしょうか?

公開書簡原文にあたってみました。↓
公開書簡原文

気になる部分をざっくり訳してみましょう。



〈今日ロシア自体の存在を脅かすものは何でしょうか、
またそのような脅威はあるのでしょうか?

確かに脅威は存在しています、この国は、
歴史が終わる瀬戸際にいると断言できます。

人口動態を含むすべての重要な分野は着実に悪化しており、
人口減少の速度は世界記録を更新しています。

そして劣化は本質的に全体的なものです。

どのような複雑なシステムでも、要素の1つの破壊が
システム全体の崩壊につながる可能性があります。

そして、私たちの意見では、
これがロシア連邦に対する主な脅威です。

しかし、これは国家モデル、政府の質、
社会の状態から生じる内部の脅威です。

そして、その形成の理由は内部にあります。

生存不可能な国家モデル、権力と管理システムの完全な
無能力と非専門性、社会の消極性と無秩序です。

どの国でも、このような状態で長く存在することは
できません。〉
ーー


これを読んでもなかなか理解できないでしょう。

はっきりわかるのは、


・人口減少


ですね。

ロシアは一時期、「母親資本」(マテリンスキー・カピタル)という制度で、
出生率を激増させることに成功しました。

1999年1.16だった出生率が、
2015年には1.78まで上昇しています。

しかし、その後再び減少に転じ、
2021年には1.49まで下がりました。

いずれにしても、「(ロシアの)人口減少の速度は
世界記録だ」というのは、少々大げさでしょう。

2022年には戦争がはじまり、
若者がどんどん亡くなっています。



・生存不可能な国家モデル

これは、何でしょうか?

イヴァショフさんは、ウクライナがロシアから離れて
欧米に走ったのは、ロシアの国家モデルが「魅力的で
なかったから」と断言しています。

皆さん、ウクライナの立場だったらどうでしょうか?


豊かで、言論、信教、結社の自由があり、
為政者を批判しても逮捕されない欧州?

貧しく、言論、信教、結社の自由がなく、
プーチンを批判したら逮捕されるロシア?


ウクライナは、「豊かで自由な欧州」を選んだのです。

ロシアの国家モデルは、「なんちゃって民主主義」で
「プーチン一人の独裁」です。

イヴァショフは、このシステムでは、
長期的な存続は不可能だと思っているのでしょう。



・権力と管理システムの完全な無能力と非専門性

これは、なんでしょうか?

イヴァショフは以前から、非専門家が大臣になることを
批判していました。

たとえば、ウクライナ戦争で弱さがばれてしまったロシア軍。

長年国防相をつとめてショイグは、軍人出身ではありません。

彼の専門は、建築学です。

ショイグは、1991年から2012年まで「非常事態相」を
務めました。

非常事態省は、災害時に人々を助けるのが役割です。

「困ったときは、ショイグが助けてくれる」と大人気になり、
国防相に大抜擢されたのです。

しかし、ウクライナ戦争がはじまると、
素人であることが暴露されてしまいました。


「非専門家が大臣になる」件。

日本も、素人が大臣になるのは普通ですから、
改革が必要かもしれません。


イヴァショフの言葉だけでは、
「ロシアのシステム危機」はよく理解できません。

そこで、28年ロシアに住んでいた私の意見も
書いておきましょう。


・プーチンは、「経済成長モデル」を描けない。

これがおそらく最大の問題です。

2000年から2008年まで、つまりプーチンの
1期目、2期目、ロシア経済は絶好調でした。

なんと、年平均7%の成長をつづけていたのです。

あまりにも調子がよすぎて、2007年ぐらいになると
プーチンは、「ルーブルを世界通貨にする!」などと
主張しはじめました。

なぜ、ロシア経済は絶好調だったのでしょうか?

原油価格が右肩上がりだったからです。

1998年1バレル10ドルだった原油価格は、
2008年140ドルまであがりました。

10年間で14倍になった。

これが、ロシア経済急成長の理由です。

しかしその後、アメリカでシェール革命が起こり、
同国は産油量、産ガス量で世界一になりました。

要するに、シェール革命で供給量が激増し、
「原油、ガス価格が上がらなくなった」のです。

もちろん戦争などがあると一時的に暴騰することはあります。

しかし、2000年代のような「右肩上がり」の時代は
終わっているのです。


プーチンは、原油価格が上がらない時代に、
どうやってロシア経済を成長させることができるのかが
わかりません。

さらに、2014年の「クリミア併合」による日本、
欧米の制裁によって、経済はほとんど成長しなくなりました。

クリミア併合後の経済成長率を見てみましょう。

2014年0.74%、2015年マイナス1.97%、
2016年0.19%、2017年1.83%、2018年2.81%、
2019年2.20%、2020年マイナス2.65%、2021年5.62%。

2020年は「新型コロナ大不況」、
2021年は「反動好況」ということでしょう。

2014年からウクライナ侵攻前年2021年までの成長率は、
年平均1.09%。

コロナ要因を除外するために2014年から2019年までを見ると、
年平均0.96%になります。

いずれにしても、2000年代毎年7%成長を続けていたのが
信じられないほどの低迷ぶりです。



・もう一つは、深刻な汚職問題です。

「腐敗認識指数ランキング」を見ると、

ロシアは2021年、180か国中136位です。

28年間住んでいた私は、「そんなもんだろう」と思います。

たとえば最近、ティムール・イワノフ国防副大臣が、
収賄などの容疑で逮捕されました。

彼は、いくら賄賂をもらっていたのでしょうか?

タス通信によると「10億ルーブル以上」
(日本円で、約17億円!!!)だそうです。

裏金作りに励んでいた日本の政治家さんが、
かわいく思えてきます。


ロシアの場合、「例外なくこんな感じ」だと思います。

たとえば、故ナワリヌイの「メドベージェフ
(元大統領、元首相)の巨大別荘群」動画をみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=qrwlk7_GF9g

上がこんなですから、下の人に「汚職はやめろよ!」
と言っても、説得力ゼロです。



・深刻な格差

ソ連は、「万民平等」「労働者の天国」を標榜していました。

確かに、貧富の差は少なかったようです。
(特権階級はいましたが。)

プーチンが大統領になると、
彼は所得税を一律13%のフラット税にしました。

所得税率13%。

私は幸せでしたが、国家でみると大きな副作用がでています。

それが、深刻な格差問題です。

長くなるのでここでは詳述しませんが、
ロシアは、とんでもなく格差が開いた社会です。



というわけで、イヴァショフさんは、
「深刻なシステム危機」の詳細を語っていません。

しかし、28年間ロシアに住んでいた私が見ても、
「深刻なシステム危機」だと思います。

一番の問題は、経済が完全な
「資源依存」であることでしょう。

それで、原油価格の右肩上がりが止まった今、
プーチンは「成長戦略」を描けないのです。

経済が低迷する期間が長くなるのに比例して、
プーチンは好戦的になっていきました。

そして、2022年2月24日、彼は致命的な間違いを犯し、
【 戦略的敗北 】を喫してしまったのです。

彼は、一体どこで間違ったのでしょうか?

詳細を知りたい方は、いますぐこちらをご一読ください。



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